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■2004年7月12日 … どこかで聞いたような話。 |
それは銀行の閉まる直前のお話です…。
3時間際の金融機関―それは戦場なのです。
行き交う人々が慌ただしく声を張り上げ、
定時の時刻を1秒でも過ぎればテロリストが来ようが
エステル平和条約を振りかざそうが、無駄な抵抗。
阿鼻叫喚の不可侵領域へと変貌するのです。
― そんな午後のひととき。
優雅にハーブティーをすする私の耳に飛び込んできた言葉。
「振込みのご案内お願いしまーす!」
またですか。
必殺、金額の小さい振込みはATMでやっていただいて
窓口の負担をなくそう作戦。なのです。
そうでもしないと、4つもある窓口は全て振り込みで埋まってしまいますから。
むしろ、それだけのために金融機関は存在しているのですから。
人から預かったお金を、利子をつけて人に貸すなどというシステムは
一体誰が考え出したのでしょう。
そのおかげで今の私がある。
ああ、迷惑きわまりない。
とりあえず、今やっていた仕事を放って接客に当たる月代。
なんてサービス精神旺盛なんでしょう。
その後頭部にはぴょこんとはねた髪の毛。
それは朝一刻も早く職場に着きたかった証。
なんて仕事熱心な私。ああ、けなげ。
窓口横のキャッシュコーナーで丁寧にお客様に振り込み操作を説明する月代。
もちろん教員免許だって持っていますから、
その説明は完璧なはずです。
お客様もつい私のことを「先生」と呼び間違えそうになっていましたから。
お振込みを終え、感謝の念を隠しきれないお客様を振り切り
戦場へ戻ろうとした私が目にしたもの―
シャッター閉まってる。
…気付きませんでした…。
無常にも定時を迎えた銀行は防犯シェルターとも言うべき
厚き壁をがっしりと気付きあげていたのです。
これだけはいくら子供が泣きわめこうが、
土下座をしてアッラーの神に祈りを奉げようが、
爆弾が空から降り注ごうが、
決して開くことのない扉。
でももしかしたら、本当に爆弾が降ったら開くかもしれません。
しかし、今の私には決して乗り越えられぬベルリンの壁を前に、
お客様方の痛々しい視線を受けつつ、とぼとぼと裏口へと向かったのでした。
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